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インターネット発展段階論、別世界から現実の延長、そしてこれから。
 
 近年、インターネットというものの在り方も随分と変化したように思える。かつてインターネット上の掲示板などに代表される場所では、独自の世界観や文化が形成され、インターネット世界というさながら現実と隔絶したもう一つの世界が展開されていた。ところが、インターネット利用者の増加に伴い、インターネットはSNSといった現実の生活ありきのコミュニティが形成された事によって、インターネットは現実の延長としての場としての色を強め、かつての別世界としてのインターネットという側面は薄れてしまったように思える。しかしこの記事で筆者は決してインターネットの懐古や、利用者の選民主義的思想を展開したいのではない。むしろ、インターネットの利用者層の思想というものは、インターネットの発展段階にそれほどの影響を及ぼしていないのではないかと考えている。それについての細かい解説も含めながら、この記事ではインターネットの歴史におけるその在り方の変革についてと、そしてインターネットの今後についての一考察を述べていきたい。


●別世界としてのインターネット

 黎明期から初期のインターネットにおいては、チャットコミュニティや匿名掲示板などの役割が大きかったと言える。このような場所においては、現実と隔絶した振る舞いが許容され、現実ありきではなく、インターネットという場を前提にしたコミュニケーション、つまり、別世界としてとしてのインターネットが展開されていた。この事は、この時期におけるメディアなどで描かれるインターネット像にも如実に現れている。例えば代表的なものとしては「デジモンワールドシリーズ」や「流星のロックマンシリーズ」、ややマイナーなところで言えば「serial experiments lain」などの世界観に象徴されるであろう。これらのゲームやアニメにおいては、現実とは別に電子世界という場が形成されている世界観が展開されており、いわば当時をして著しい発展を遂げていたインターネットの未来像として想像されたものであろう。また別世界としてのインターネットの実践の場としてはMMOゲームのようなコンテンツが挙げられる。このようなゲーム内では、独自に形成されたゲーム世界において現実に置いては顔も知らない人々とコミュニケーションを取ることができ、中には現実の生活よりもゲーム中の世界を優先してしまうような、いわゆる「MMO廃人」のような存在が社会問題化したことも一昔前のニュースとして記憶にあるのではないだろうか。


●現実の延長として変化したインターネットとその基盤

 別世界として存在するインターネットから、あくまで現実の延長線上としてのインターネットへと変貌して行ったのは、2010年代におけるスマートフォンとSNSの普及が起点だろう。特にスマートフォンのような、高性能なカメラと処理能力を備えた機器と、その通信を支えうる高速度回線がインフラとして整備された事は、インターネットの現実の延長化に拍車をかけたように考えられる。というのも、スマートフォン以前のインターネットにおいて、インターネットという存在が別世界性を保っていたのは、現実とのリアルタイム性に対しての技術的制約が要因だったように思えるからである。例えば、現実になにか出来事があったとしても、それを分かりやすく報告するために高画質な写真や動画などをアップロードするには、それなりの時間と手間がかかるために、インターネット上においてはブログのような文字主体の形式による報告が主であった。つまり、インターネットという存在の役割として、現実の出来事の報告という行為そのものが技術的制約のために不向きであったとも言える。しかしスマートフォンという機器が存在し得る技術的水準に達した時、インターネットは多くの人に現実の出来事を報告し、共有するのにうってつけの存在となった。SNSなどのコミュニケーションサービスが普及した事は、現在をもってして考えると、インターネットが一定の技術的水準を満たしたがために起こった現象なのではないだろうか。
 結論として言えば、インターネットという存在が別世界から現実の延長として扱われるようになったのは、技術的な一定の水準を満たした為に起こった自然な出来事であるように思われる。言い換えれば、インターネットの在り方というものは、その時期に多数を占めるインターネット利用者の気質などに影響されたのではなく、つねに技術的な制約のために規定されていたのではないだろうかということである。


●技術的進歩とインターネットの今後

 では、今後のインターネットはどのように変容していくのだろうか。今後のインターネット関連の技術進歩のロードマップとして比較的容易に予測し得る技術分野は、ますますのコンピュータ機器の高性能化、また5G に代表される回線の高速化、そしてヴァーチャル・リアリティ技術の進歩である。筆者は特に最後のヴァーチャル・リアリティ技術の進歩に注目している。現在の技術的水準では、残念ながらまだまだヴァーチャル技術は取り扱い難いものである。しかし今後、コンピュータ機器の高性能化と小型化、そしてさらに回線の高速化が伴えば、新たな段階としてヴァーチャル技術の一般化という事が予測される。そのとき、インターネットはどのような世界になるのだろうか。
 筆者の考えでは、再びインターネットの別世界化が起こるのではないかと予測している。付け加えて言えば現実の延長としてのインターネットは今後もはや廃れることはなく、別世界的インターネットの顕在化と並列していくだろう。ヴァーチャル技術と一口に言っても、現実の延長としてのARと、ヴァーチャルな世界を形作るVR技術とに大別される。このうち、VR分野については、昨今VR元年と銘打たれたVRゲームブームやVR技術を使用したコンテンツ、バーチャルユーチューバーなどが話題になったことは記憶に新しい。しかしながら、現段階でのVR技術とは、やはり過渡期であり、VR元年として銘打たれたVRゲーム群はやや時代が早すぎたと言わざるを得ない点もある。しかし技術的な水準が一定のラインに達すれば、自ずとヴァーチャルによる非現実の世界の形成が成されるのではないだろうか。VR技術には世界の在り方そのものを変えうるだけのポテンシャルを秘めている、というのは筆者の期待の部分も大きいかも知れないが、現時点でもインターネット上に展開されるVRヘッドセットを利用したヴァーチャルチャット「VRChat」というシステムも存在することを考えれば、コミュニケーション手段としてのヴァーチャル化というものが一定程度進行し、そこではさながら別世界としての、かつてのアニメやゲームに描かれたような電子世界が形成されうる事を筆者は予測している。


●最後に

記事の全体として、やはりやや別世界としてのインターネットやヴァーチャル技術に期待を寄せる筆者の立場が現れてしまった感が自身でも否めないが、もしここまで筆者の一考察と妄想に付き合ってくださった方がいれば、心からの感謝を述べたい。