【最果ての土地シリーズ③】巨大島グリーンランドの不思議な歴史と現在 ~なぜデンマーク領なのか?~
(グリーンランドの地図、Wikipediaより引用) 最果ての土地シリーズ第三段でお送りするのは、巨大島、グリーンランド。面積は2166088キロ平方メートルと、日本の6倍でその85%が氷床に覆われている。地球上の真水の実に7%がグリーンランドに蓄えられている。
世界最大の島であり、大陸の定義とはグリーンランドより大きいこと、島の定義とはオーストラリア大陸よりも小さいことである。
さて、この凍てついた北方の地がなぜデンマーク領なのか? と、気になったことがある方も多いのではないだろうか。それを知るためには、この巨大な島の凍てつく大地に隠された長い歴史を紐解かねばならない。
定住と消滅を繰り返すグリーンランドの文化の歴史
●バイキング以前史
グリーンランドは少なくとも紀元前2500年頃からイヌイットによる人類の定住が確かめられている。「サカク文化」と呼ばれる古代文化がグリーンランド南部において紀元前2500年頃から紀元前800年頃にかけて繁栄した。またグリーンランド北部においてもインデペンデンスフィヨルドと呼ばれるフィヨルドの周辺で発展した「インデペンデンスⅠ文化」と呼ばれる古代文化が紀元前2400年頃から紀元前1300年頃まで発展していたが、気候の寒冷化とともに消滅してしまった。また、「インデペンデンスⅡ文化」と呼ばれる古代文化がグリーンランド最北部においても紀元前800年から紀元前80年頃にかけて見られた。紀元前の時代からグリーンランド北部などという考えるだけでも凍てつくような土地に人が住んでいたというのは全く驚きである。
(インデペンデンスⅠ文化及びインデペンデンスⅡ文化の分布 Wikipediaより引用)
その後、前期ドーセット文化、及びドーセットⅠ文化と呼ばれる古代文化が紀元前700年から紀元200年にかけて見られた。ドーセット文化はドーセット人と呼ばれる人々がグリーンランド南部において定住した文化であったが、それもやがて気候の寒冷化とともに消滅してしまった。
この前期ドーセット文化以降はしばらくグリーンランドは無人であったとされる。
●10世紀後半、バイキングの定住
982年頃、「赤毛のエイリーク」と呼ばれる人物がグリーンランドを探索した。「グリーンランド」の名前は「赤毛のエイリーク」が名付けたとされる。この名の由来は二つの説があって、一つはグリーンランドといういかにも緑が生い茂っている土地をイメージさせることによって入植を促進しようとした説、もう一つは中世の温暖期においては本当にグリーンランド南部には緑が生い茂っていたという説の二つがある。グリーンランドの探索後、エイリークは一度アイスランドに戻ったが、985年頃にグリーンランドに多数の植民者を連れて戻り、グリーンランドに入植した。最初の定住地はグリーンランドの南西岸、現在のQassiarsukと呼ばれる地名の付近に作られた。この定住地にはピーク時には合わせて三千人から五千人ほどの人口があったとされる。
またこの時、イヌイットの先住民が同時期にグリーンランドにおいて後期ドーセット文化及びチューレ文化と呼ばれる文化を築いており、特にチューレ文化はグリーンランドの極地での生活に適応し、現在グリーンランドに住むイヌイットの祖先であると考えられている。バイキングとチューレ人はしばしば遭遇し、交渉または衝突した形跡が見られていいる。
1261年に、グリーンランドの住民は故郷であるノルウェー王国に忠誠を誓う事になったが、1380年にはノルウェー王国そのもがデンマーク王国の支配下に入った。1397年のデンマーク、ノルウェー、スウェーデンの三国によるカルマル同盟によってグリーンランドは同盟の領土となった。しかし、グリーンランドの開拓は気候の寒冷化などの理由から14世紀頃から衰退し始め、15世紀後半には一度消滅したものと思われている。
●デンマークによるグリーンランド植民
15世紀後半に一度はヨーロッパ人による入植は消滅したものの、グリーンランドに対する領有権主張はデンマーク=ノルウェー二重王国によって続けられた。18世紀には再びデンマーク人がグリーンランドの植民に乗り出し、植民を行った。
その後時代は下り、1814年のナポレオン戦争によってノルウェーはデンマークから分離独立し、この時デンマークがグリーンランドの権益を存続した。その後20世紀にグリーンランドの土地をめぐる領有権闘いがあり、1905年にスウェーデンから独立したノルウェーによるグリーンランドのデンマークに依る領有に異議申し立てをおこなったが、1933年にはデンマークの領有が認められる形で決着した。これが今日においてもグリーンランドがデンマーク領である経緯である。
デンマークを含む北欧とスカンディナヴィアの歴史における中世からの統合と分裂によるグリーンランドにおける複雑な領有権の変遷があったこともあり、今日グリーンランドがデンマーク領であることは多かれ少なかれ偶然の産物であると言えるかも知れない。
●現在のグリーンランドにおけるデンマークからの独立志向
現在グリーンランドはデンマークから大部分において自治を認められている。2009年には防衛と外交を除いた全ての支配権がグリーンランドに移譲され、グリーンランドは半独立状態にあると言える。さらに現在、グリーンランドでは、経済的な自立という壁があるとはいえ、地球温暖化に伴うグリーンランドの膨大な埋蔵資源の存在を背景に、デンマークからの完全なる独立を求める運動も起こっている。
グリーンランドの現在
以外に思えるかも知れないが、グリーンランドは5万5千人もの人口がある。その大半はグリーンランドの首都、ヌークに2万人近くが集中している。少なくとも筆者はこれをグリーンランド人には失礼かもしれないが、極北のグリーンランドという地にしては、人口が多いと思った。グリーンランドに興味を持った方はぜひヌーク市のストリートビューを見てみて欲しい。大学や商業施設もあり、意外と(本当に失礼だが)都会である。
また昨今のニュースとして記憶に新しいのは、アメリカのトランプ大統領がグリーンランドを購入する計画を興味深いと表明したことだろう。これには前述の通り、近年の地球温暖化によってデンマークの氷床が縮小し、その地下に眠っている膨大な埋蔵資源の存在が大きいと思われる。なお近年は中国企業による採掘も進められており、極北の地グリーンランドも、現在のアメリカと中国の勢力争いの一部になっているのだ。
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参考サイトリスト
Wikipedia「グリーンランド」
Wikipedia「グリーンランドの歴史」
Wikipedia「History of Greenland」
Wikipedia「Independence Ⅰ culture」
Wikipedia「Independence Ⅱ culture」
株式会社クルーズライフ「インデペンデンスⅠ文化と先ドーセット文化」
デンマーク大使館「グリーンランドへようこそ」